相続を「争族」にしないために

 

弁護士・公認会計士・通訳 黒川康正

 法律・税務相談に応じている者にとって最近感じるのは、相続問題の相談が多くなっていることである。その相談には遺言や遺産分割の問題などの法律間題と同時に、相続税の申告や、その事前対策など税務間題が複雑にからむことが多い。
 ここ数年、わが国の年間の死亡者は約130万人。これだけの件数の相続が毎年あり、その件数の何倍もの相続人らの関係者が、相続にまつわる法律・税務問題にまきこまれている。
 特に相続税については、平成27年1月1日から基礎控除額を下げるなどの改正がなされたこともあり、平成27年中に相続税の対象となる財産を残して亡くなった人(被相続人)は約10万3000人、その課税遺産総額は約14兆5554億円、相続税総額は約1兆8116億円となっている。
 この約10万3000人の被相続人についての納税者である相続人は、約23万4000人。その家族など関連する人を合わせると、その何倍にもなろう。これが毎年くりかえされ、しかも増加している。誰もが相続税に関心をいだかざるをえなくなってきている。
 わが国の税金は、国際的に見てもかなり高い。かといって相続税がない国を単にうらやましがってもいられない。現実にわが国では相続税がある以上、その前提で工夫をしなければならない。税法を知らないために正当な他の方法による場合に比べて多額の税金を支払うことになっても、それは税金対策をしなかった者の責任となり、権利の上に眠る者は救われないからである。
 ところが、世間には、相続や相続税についての誤解が結構ある。その誤解のため、本人としては有効な対策をしているつもりが、結果として無意味であったり、有害であることも多い。
 本講座で正しい相続知識を得、相続対策に役立てていただければ幸いである。