第4講 贈与税

 

 弁護士・公認会計士・通訳 黒川康正

 

1 贈与とは

 贈与とは「あなたにこれをあげましょう」「それをもらいましょう」という意思の合致で成立する契約である。贈与には死因贈与(贈与者の死亡により効力を生じる贈与)も含まれるが、死因贈与についての税法上の扱いとしては、贈与税ではなく、相続税が課せられる。

 


2 贈与税の計算

 贈与税の計算は相続税に比べて簡単である。その年の1月1日から12月31日までに贈与を受けた財産の価額の合計から、基礎控除額110万円を(配偶者控除額があるときはその額も)差し引いた額に税率をかけた額が贈与税額である。
 なお、贈与税の配偶者控除とは、婚姻期間が20年以上の配偶者から居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭をもらった場合に使える2000万円までの控除をいう。贈与税の配偶者控除については、ケーススタディ1参照。
 さらに、住宅取得資金の贈与について、一定の条件のもとに、贈与税を軽減する特例がある。
 また、贈与を受けた財産がいくらかについては、相続税と同じ方法で評価する。
 なお、平成15年度税制改革によって創設された「相続時精算課税制度」については、別途、「4」で述べる。
 
 基礎控除後の贈与金額によって、税率は8段階に分れている。

 一般の贈与の場合は、200万円以下は10%、200万円超300円以下は15%というように、金額が多くなるにつれて税率は上がる累進税になっており、3000万円を超えると55%にもなる。

 一方、特例の贈与の場合・・・直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日時点で20歳以上の者への贈与の場合・・・は、200万円以下は10%、200万円超400万円以下は15%というように、金額が多くなるにつれて税率は上がる累進税になっており、4500万円を超えると45%にもなる。

 

 この税率を考えるときには、相続税の箇所で述べたように限界税率と平均税率をはっきり区別する必要がある。
 限界税率だけでは、税額の計算がやりづらいので、通常は、表6-1や表6-2のような速算表をつかう。

 速算表をつかう場合は、<税額=課税価格×(限界)税率-控除額>として税額を出す。
 たとえば、一般の贈与の場合、課税価格300万円の場合は、<300万円×15%-10万円=35万円>というふうに出す。

 

     表6-1 贈与税の速算表(一般の場合)

 

基礎控除後の課税価格

税率

控除額

 

200万円以下

200万円超~  300万円以下

300万円超~  400万円以下

400万円超~  600万円以下

600万円超~1,000万円以下

1,000万円超~1,500万円以下

1,500万円超~3,000万円以下

3,000万円超

   10

   15

   20

   30

   40

   45

   50

   55

       ――

       10万円

       25 

       65 

      125 

      175 

      250 

      400 

 

      表6-2 贈与税の速算表(特例の場合)

 

基礎控除後の課税価格

税率

控除額

 

200万円以下

200万円超~  400万円以下

400万円超~  600万円以下

600万円超~1,000万円以下

1,000万円超~1,500万円以下

1,500万円超~3,000万円以下

3,000万円超~4,500万円以下

4,500万円超

   10

   15

   20

   30

   40

   45

   50

   55

       ――

       10万円

       30 

       90 

      190 

      265 

      415 

      640 

 

 

3 贈与税の対策


 贈与税の対策は、相続税の対策と共通するところが多い。たとえば、現金でなく不動産で贈与して評価の差を活用するなどである。
 もともと贈与税は、相続税を補充する目的でつくられている。つまり、もし相続税だけあって、贈与税がなければ、相続前に贈与をして相続財産をなくしてしまって相続税がかけられなくなる。これを防ぐための税である。したがって、同じ金額を相続と贈与で取得する場合には、一般に贈与税の税率の方が高くなる。
 しかし、相続は一時に集中するのに対して、贈与は何年にも何十年にも分散できる。また相続の時期には値上がりしているものを、事前に贈与すれば、値上がり前の低額の贈与にできる面もある。また、相続では、配偶者や子供など法定相続人だけに相続が集中するが、贈与では、孫やおい、めいなど、多数に分散させることができる。
 これらの特長を考えて贈与を行なうべきである。

 

 

4 相続時精算課税制度とは
 
 贈与税には従来の暦年課税のほか、平成15年度税制改革によって創設された相続時精算課税がある。

 この場合、贈与した人(贈与者)が亡くなり相続税を計算する際、相続財産に相続時精算課税で贈与されたものを加え、すでに贈与税として納めた税金が、相続税として計算された金額よりも多ければ、差額が還付され、逆なら相続税の金額に加算されることになる。

  相続時精算課税制度では、特別控除として累計2,500万円まで贈与税がかからない。暦年課税の最高税率が55%であるのに対して、相続時精算課税は一律20%である。多額の資金を短期間のうちに少ない税金で贈与できる。

 

 贈与者は60歳以上、贈与を受ける人(受贈者)は20歳以上で、子や孫などが対象である。贈与があった日の翌年から3月15日までに、受贈者が税務署に贈与税の申告を、このときに「相続時精算課税選択届出書」に記入し、戸籍謄本などを添付する必要がある。

  なお、一度、相続時精算課税制度を利用した贈与を受けたら、その贈与者からは暦年課税を適用することはできない。また、相続時精算課税は贈与であるため、相続特有の制度を利用することができない。代表的なものでは、小規模宅地等の特例(相続した財産の中に、一定の条件を満たす自宅や賃貸不動産の土地がある場合は相続税が軽減されるという特例)が利用できない。したがって、安易な利用は、不利になりかねない。

 

 相続時精算課税制度によって「継続的にキャッシュを生む資産」や「今後値上がりが期待できる(一時的に本来の価値より値下がりしている)資産」などを早い段階から次世代に資産移転しておくと、原則として有利といえる。

 前者は、定期的に賃料収入を生み出す賃貸不動産などである。親が賃貸不動産を保有し続けると、賃料収入が親の口座に貯まっていくので、いざ相続が発生するときに多額の相続税を支払う必要がある。そこで相続時精算課税制度を活用して、早い段階から賃貸不動産を次世代(子供など)に贈与しておけば、贈与以降の賃料収入は受贈者の口座に積み上がることになり、相続税の節税となる。
 後者は、「相続時精算課税における土地や株式の評価は贈与時点のものになる」という性質を利用したものだ。事業承継のために自社株式を贈与する場合、先代の社長が退任して多額の退職金が発生したり、一時的に経営環境が悪化したりすることによって赤字となった場合、自社株式の価値は低く評価されることがある。その時点で贈与すれば、のちに黒字に転換して株式の価値が上がったとしても、相続税上の評価は贈与時の低いままである。

 

 

  [ケーススタディ1…贈与税の配偶者控除の活用]

[事案]
 Rさんは、都内の賃貸マンションを出て、郊外に一戸建ての住宅を新築した。購入代金は6000万円で、Rさんはそれを株の売却代金などでまかなった。
 Rさんは将来に備えて、贈与税の特例を活用、一部を妻の名義にしようと考えている。その場合、購入時に所有者を夫と妻の共有にした方がいいのか、それとも、いつたん単独名義で登記し、後で贈与した方かいいのか。
 また、その割合は、どの程度が妥当だろうか。土地、家屋の相続税評価額は、現時点で計2700万円(時価の45%)である。Rさんには、この住宅のほかに、株式、ゴルフ会員権など相続税の評価額で1億5000万円ほどの財産がある。
 また、家族は奥さんのほかに子供が2人いる。

[アドバイス]
 Rさんの場合、相続税の基礎控除は4800万円しかない。そこで、現時点で相続がおきれば、相続税における配偶者の税額軽減の特例をフルにつかっても、相続税が課税されよう。
 そのうえ、一般に、年とともに財産の評価額は増加する。さらに、Rさん自身はまだ老齢ではなく、相続までかなりあり、その間に稼ぐことにより財産額が増加しよう。
 したがって、今のうちに将来評価額が増加する財産を、将来の相続人に移転しておくのがよい。
 この点から考えると、結論として、まず、この住宅についていったんRさんの単独名義で登記し、後にその住宅のうち2110万円分を奥さんに贈与し、その割合に応じた共有持分の移転登記をするのがよい。その理由は次のとおりである。
 一般に、贈与税の基礎控除額は年間に110万円であるが、婚姻期間が20年以上である配偶者に、一定の要件のもとで、居住用不動産または、居住用不動産取得の資金を贈与する場合には、特例により、贈与税につき課税価格から2000万円の配偶者控除を受けられる。
 この特例をうけるためには、その居住用不動産を現実に居住の用に供するなどの要件のほか、戸籍謄本や居住用不動産の不動産登記簿謄本そして住民票の写しなど提出書類等の準備も必要である。これらの要件を十分に考えてフルに活用する。
 この特例は、居住用不動産そのものを贈与する場合でも、居住用不動産を取得する資金を贈与する場合でも、いずれの場合も使える。
 しかし、実質的な効果を考えると、不動産そのものを贈与するほうが有利であろう。その理由は相続税における「評価の差」による。つまり、不動産の相続税上の評価における2000万円は時価では、その倍程度になることもある。ということは、不動産で2000万円分を贈与すれば、現実には時価で4000万円程度の贈与になりうるということである。この特例は、2000万円の範囲内であれば、いくらでも認めてくれるが、この適用を受けようとする者の一生に1度しか使えないという性格がある。だから、1度に目いっぱい使うべきだ。
 したがって、この特例による2000万円の控除額と通常の基礎控除額の110万円、これらを合わせて2110万円分を不動産で贈与するのが適切であろう。