第2講 時間は貯めて増やすことができる

 

弁護士・公認会計士・通訳 黒川康正

 

  お金は使わず貯めておけば利息がついて増えていくが、時間は貯蓄できない、いま使わない時間を先のためにとっておくことはできないし、利息がつくどころか、使いべりする、時間は有限であり、センベイみたいにかじっていけばやがて尽きてしまう……。これが一般的な時間に対する印象であろう。
 だが、時間は有限ではないし、使いべりなどしない。お金同様、いや時間はお金以上に貯蓄して増やすことが可能である。それどころか、時間は「(うまく)使えば使うほど増えていく」こともある。

 近い将来、2時間かけてやらなくてはいけない仕事があるとしよう。これをいま、こま切れ時間を合計10分間だけ先取りしてやったとする。そうすると、2時間かけるべきところ10分はすでにやっているので、将来に10分の時間をつくれることになる。
 それどころか、うまくやれば合計10分の先取りのおかげで残りの仕事の所要時間は1時間くらいに減っていることもある。あるいは、すべてこなし終えていることさえある。この理由は、後でくわしく述べるが、ここでもかんたんにふれておく。
 その2時間かかる将来の仕事の内容は、スタートから終了するまで1時間かかる数百枚のコピー作業と、スタートから終了するまで1時間かかる洗たくだったとしよう。その場合、コピー用紙を十分に入れておき、ソーターなどの機能を使えば、最初の原稿セットに5分間をつかい、終了後の整理に5分間をつかえば、途中の50分間は、コピーの前にずっと立っていなくともいいはずだ。そうであれば、10分で1時間ぶんの仕事を先取りできたことになる。

 洗たくも同様に洗たく物を洗たく機に入れてスイッチを入れれば、あとは全自動であれば、洗濯が終るまでそこにずっと立っている必要はない。もし、コピーと洗たくの開始時と終了時の作業時間をそれぞれ2分ですませられれば、合計8分間でコピーと洗たくのすべての仕事を終えてえてしまうことになる。このようにして、最初と最後の「点」だけを確保すれば、所要時間全体の「線」としての時間を使わなくてもすむのだ。

 こうして、現在の時間をうまくつかうと、将来に時間をつくることができ、時間は貯蓄ができるものである。ただ、時間を貯蓄するにはノウハウが必要である。
 1つには、すでに述べたように「先取り」が必要になる。将来やるべきことを、いま先取りしてこなしておくことで将来に空き時間をつくる。つまり時間の貯蓄である。これは、いまの時間と後ろの時間を効率的に交換したともいえる。
 また、時間をいったん金銭に置き換えて貯蓄し、必要に応じて時間に買えていく方法もある。
かんたんなルーティンワークを人を雇って代行してもらった場合などがそうで、金銭を代償にして将来の時間をつくるのである。
 さらに、時間の貸し借りによって貯蓄することもできる。むかしの農作業にはよく見られたことだが、AさんがヒマなときにBさんの田植えを手伝っておき、Aさんの繁期にはBさんの手を借りる。このように労働力を互いに交換、融通しあうことでも時間の貯蓄ができる。
 イタリアでは、この時間貯蓄法が社会に広まりつつあるという。たとえばリタイアした教師が近所の子供の宿題の面倒をみた場合、その時間を市役所で「時間通帳」に預金でき、孫のベビーシッターを子供に頼むなどして払い戻しを受けることができる。
 そんなサービスの貸借や時間交換のシステムがイタリア北部のパルマ市で始まるや、パドマなど北イタリア一帯に広がり、ついに、ローマでも始まっているという。

 過ぎ去った時間は取り返せない、まだ訪れていない時間は使えない。私たちはそう安易に思い込んでいるが、そんなことはない。先取り、代行、交換、貸借などの方法によって時間を貯め、増やすことができるのである。