第10講 「作業は一枚岩ではない」……作業を細分化する

 

弁護士・公認会計士・通訳 黒川康正

 

 小学校6年の冬、郷里の北陸地方に記録的な大雪があった。私の郷里の福井市は、福井県の中でも平野部であり、通常はあまり積雪は多くないが、その時は100年来という2メートル13センチという記録的積雪となり、学校も10日間くらい休校となって、子供といえど屋根の雪下ろしなどに忙殺された。
 いま思えば、私はこのとき時間活用の1つの定理を学んだ。それは「作業は一枚岩ではない」ということである。
 雪下ろしはご存じのようにスコップなどで雪をサイコロ状に区切りながら行なう。雪だから小さく細分化して、少しずつ、子供の手でも行なえる。
 これがひとかたまりの大きな岩だったらどうか。子供どころか人間の手にはとても負えない。細分化は不可能だろう。
 だが、さいわいなことに一般に作業の対象は岩でなく、雪である。いくらでも細分化でき、小さく自在に区切って対処できる。
 岩なら大きなかたまりのまま動かさなくてはならないが、雪下ろし作業は雪のようにいくつもに分解して、1つずつばらばらにそれぞれの場所で処理できる。
 したがって、たとえまとまった時間はとれなくても、作業を小さく少しずつこなしていくことで、大きなことが効率的に達成できるのだ。

 私たちが仕事になかなかとりかかれなくて時間を浪費してしまいがちなのは、その仕事がひとかたまりの岩に見えて、そのまま処理しなくてはと思うからである。
 雪のように細分化して、できるときにできることから手をつけていけば、手に負えないと思えた仕事も意外に簡単にかたづくものである。1つひとつの時間は断片的でも、その集合は大きな作業の処理を可能にする。
 作業を細分化することのプラスはそれだけではない。具体的な方法論が見えてくる利点もある。「できない」と思っていたのでは方法論の浮かびようもないが、細分化すれば「できる」と思えてき、おのずと方法論が生まれてくる。
 5000万円のマイホームをキャッシュで買えといわれてもメドの立てようもないが、月10万円、ボーナス月40万円の返済となれば、具体的な返済法が見えてくるだろう。
 全工程をこなすのに1週間かかる。このままではうんざりするだけだが、1日単位の仕事を考えれば、やり方がわかり、とりかかる意欲もわいてくる。
 大きな作業は小さく細分化して配分するのがもっとも効果的だ。私はこれを作業の「因数分解法」とよんで、時間の有効活用に役立ている。