第12講 「端数効果」で時間感覚を磨く

 

弁護士・公認会計士・通訳 黒川康正

 

「では、次回の打ち合わせの時間ですが、午後2時でどうですか。」といわれて、「できたら、2時15分にしませんか」と言うと、10中8、9けげんな顔をされる。 開始時間や終了時間は2時ジャストとか2時半とか、切りのいい時刻を設定するのがふつうだからである。
 しかしこれは固定観念や習慣、気分的なものにすぎない。少なくともジャストにする必然性はまったくない。それどころか、切りのいい時刻に慣れていると、こまかい時間感覚が鈍く、いい加減になってしまうようだ。

 「1時から」ではどの単位まで4捨5入したのかわからない。そこで、「2時ごろ」からとなり、2時5分でも、場合によっては2時10分でも許される、そんな時間のあいまいなニュアンス=幅が生じやすい。遅刻の常習者はこうしたあいまい感覚の持ち主である。
 同様に、たとえば1時から1時50分まで打ち合わせ時間を設定したとする。時間感覚の鈍い人はたいてい、「ああ、2時までの1時間あるな」と考える。残り10分を延長していいと勝手に思いこんでしまうものである。
 こうしたことは、ふだん、時間を30分や1時間といった切りのいい単位で分割し、ひとかたまりのものとしてとらえている固定観念からきている。市販のスケジュール表の刻みがかならず1時間単位、30分単位になっているのは、その証拠だろう。
 だが、1時間は1日を24等分した便宜的な設定にすぎない。便宜を固定化すると硬直する。時間の有効活用のためには、切りのよさという固定観念にとらわれる必要はない。むしろ邪魔である。
 そこで冒頭のように、約束時間やスタート時間を「端数」に定めてみるといい。2時ごろから始めようではなく、2時15分に開始すると決めるのである。すると、有効数字は「分」となり、4捨5入したのは「秒」となる。これだけで、厳密性が呼び起こされ効果があるものだ。

 定刻を半端な時間に設定するこの「端数効果」は対人に効果をより大きく発揮する。会議の開始時間や遅刻常習者などの“時間泥棒”対策には効果の高い方法である。
 多くの人が出席する会議には、人数が多いだけ匿名性が高まるのか、かならず遅刻者があらわれるものだ。こうした遅刻常習者はそれほど悪意はないことが多いが、他人の時間を奪って浪費する時間泥棒となりかねない。罪の意識が希薄なぶんかえって始末に負えない面がある。
 こんなとき、約束時間を2時ピッタリでなく、2時15分などに設定する。「2時15分というからには、2時ごろでも2時くらいでもなく、2時15分にきちんとはじめるのだな。時間厳守だ」。そう泥棒氏の厳密性がうながされ、時間を守る方向に作用するのである。
 1時間や30分が時間の最小単位などではない。実質、50分かかる仕事に対して1時間を与える、よく考えると必然性のない時間の切り上げによって、私たちが失なっている時間はかなり多い。
 端数効果を利用して、こまかい時間感覚を身につけるべきである。それが時間コスト意識をするどく磨くことにもなる。