第5講 遺言の方式

 

弁護士・公認会計士・通訳 黒川康正

 

 遺言書1通の有無が相続の行方を大きく左右する。その遺言が法律上有効か、その遺言内容や税務上有利かなど考慮すべきことは多い。そこで、まず、遺言の有効な方式について、ここで述べ、それを踏まえて、次講で、税務を活かす遺言内容について述べることにする。

1.遺言方式の種類

 民法は遺言の方式につき、次のように定める。
「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、これをすることができない」
 遺言の方式は、普通方式と特別方式に大別され、さらに、普通方式は自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類に分けられる。
 特別方式の遺言は危急時遺言と隔絶地遺言に分けられ、さらに、危急時遺言は死亡危急者の遺言と船舶遭難者の遺言に、隔絶地遺言は伝染病隔離者の遺言と在船者の遺言に分けられる。結局、遺言の方式は全部で7つである。ただし、特別方式の遺言は右のような特殊な
場合にしか用いられない。したがって、以下、普通方式の3つについて説明する。

2.自筆証書遺言

 自筆証書遺言とは、自分の手で書く遺言である。これにつき、民法は次のように規定する。
 「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、印をおさなければならない」
 自書とは、自分の手で文字を書くこと。最初から最後まで、遺言者自身の手で書かなければならない。専門家の関与なしでこの方式で作成する場合は無効になりやすいし、また、紛失しがちである。必ずしもおすすめできない。

3.公正証書遺言

 公正証書遺言につき、民法は次のように規定する。
 (1) 証人2人以上を立ち会わせる。
 (2) 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する。
 (3) 公証人が、遺言者の口述を筆記し、遺言者及び証人に読み聞かせる。
 (4) 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自署名押印する。

     遺言者が署名できない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えられる。

 (5) 公証人が、その証書は前4号に従って作ったものである旨を付記して、署名押印する。

 この方式は、公証人や証人の前で口述するので、すべてを秘密にすることはできない。しかも、遺言者の印鑑証明書や2人以上の証人が必要など手続きが複雑になる。
 しかし、公証人が作成保管するので、紛失したり、無効になる心配がない長所があるのですすめられる。
 なお、次の者は、証人になれない。
 (1) 未成年者
 (2) 禁治産者及び準禁治産者
 (3) 推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血属
 (4) 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び雇人

 遺言内容を知られてよい、信頼できる友人に証人を頼む。心配なら、弁護士に頼む。弁護士はすべてビジネスライクに割り切り、秘密も守る。
 なお、証人はその住所、氏名、職業、生年月日を告げればよく、印鑑証明書まではいらない。もっとも、記憶違いのおそれがあるので、住民票を持参したほうが確実である。
 なお、公正証書遺言につき、最初から弁護士に依頼するのもいい。いろいろ助言もしてくれる。

4.秘密証書遺言

 自筆証書遺言は、秘密性は保てるが、紛失や無効になるおそれがある。公正証書遺言は、紛失することはないが、遺言内容を第三者(公証人や証人)に知られてしまう。それらをきらうなら、秘密証書遺言がある。これは、遺言の内容を秘密にするため、遺言を封書にしたうえで公証人と証人の前に提出して、遺言書である、と言えばよい。この方式について、民法は次のように定める。
 (1) 遺言者が、その証書に署名押印する。
 (2) 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章で封印する。
 (3) 遺言者が、公証人1人と証人2人以上の前に封書を提出し、遺言書である旨と氏名・住所を申述する。
 (4) 公証人が、その証書の提出日と遺言者の申述を封紙に記載後、遺言者や証人とともに署名押印する
     この方式は、遺言の内容を秘密にしておきたいときなどには効果的である。