第3講 時間感覚を磨く名案がある

 

弁護士・公認会計士・通訳 黒川康正

 

 前講でも述べたが、もう少し時間をお金との対比で述べてみる。
 1万円札を余分な在庫に貼って、「モノだと思うからムダを感じない。在庫をいつもお金だと思え」。そんなやり方で社員にコスト意識を浸透させる会社もあるようだ。
 時間は目に見えない。だから、その価値がわかりにくいが、目に見えるお金に換算して、コスト意識を身につけるとよい。

 ずっと以前、まだ、国際的会計事務所に勤務していたころ、私は1万円札をコピーし、それに何時間に相当するかを記入し、それを自分の部屋の目につくところに貼って、時間の有効活用をはかったことがある。仕事をしながら語学などを学んでいたころのことであったが、コスト意識の養成にずいぶん効果があった。
 たとえば、計算すると自分の時給は2500円くらい、1万円は4時間に相当する、ぼんやり4時間過ごしたら1万円の損失にひとしい……。こうしたコスト意識が、目の前の1万円札のおかげで、いつも頭にはたらくからである。
 べつにお金でなくてもかまわないが、その人にとって、いちばん身近なものに対応、置換させるのがリアルで効果が大きい。時間を大切なものに置き換える換算法である。
 収入を労働時間で割って、時間コストを割り出す。新人で収入の低いころは時間コストも安いが、仕事が効率よくこなせるようになり、収入も上がっていくと時給も高くなっていく。それにつれてより時間を大切にするようになる。

 時間感覚を磨く方法として、自分の時間コストを1度計算してみたらどうか。自分の時間価値を知っておき、いろいろな場面でそれをものさしとして使ってみると効果が上がる。
 むろん学生や専業主婦などで、現時点では具体的な収入のない人も同じである。会計学に「機会原価」という考え方がある。2つ以上の選択肢があり、ある1つを選んだとき、他方を選択しなかったことによって失われる潜在的利益で、現実に選択したことについてのコストを計ろうとするものだ。
 仕事をしようとすればできたのに、あえて、その機会を見逃し、仕事をしないで、その時間を学業などにあてた場合も、仕事をすれば得られたはずの金額が、その学業にあてた時間についての時間コストになるのである。この機会原価という考え方を認識しているかどうかで、時間の使い方は大いに変わってくる。
 週に2回、カルチャーセンターに通うとして、定期券を買うのは乗るたびに切符を買うより金額的にはやや割高になる。だが定期券を買えば、いちいち切符を買う手間や時間が省ける。こうして得られる時間とそのために支払うお金のどちらが大事かを判断する際に、自分のタイムコストを知っていることが非常に役立つ。
 仕事の資料として10ページ分だけ必要な書籍があったとする。図書館なりで借りて必要部分だけコピーすれば安上がりかもしれないが、時間がかかる。書店で買ってしまえば、図書館でのコピー代よりは、お金はかかろうが時間が得られる。
 こんな選択の場合にも、機会原価の考え方は適用できる。自分の時間コストをきちんと把握していれば選択に迷いはないし、少額のお金より貴重な時間のほうを選ぶ「勇気」も生まれてくる。