第8講 重要度と緊急度を混同しない

 

弁護士・公認会計士・通訳 黒川康正

 

 仕事や作業の優先順位を考えるとき、混同しやすいのが「重要度」と「緊急度」である。
 今日中に諾否の電話をかけなければ流れてしまう仕事があるとする。つまり時間的な緊急度は高い。だから急いでやらなくてはいけない優先事項だと、ふつうは考えてしまう。だが、緊急度イコール優先度とは一概にはいえない。
 その仕事による収益が小さく、全体の売上げへの影響や将来への影響はほとんどないとしたら、どうか。電話しなくていいとはいえなくとも、重要性が他の仕事より低ければ、時間は迫っていても優先度のレベルは下がるだろう。

 年賀はがき当選の景品引き換えの期限が迫っている。今日、引き換えにいかなければ無効になる。時間がない、緊急度が高いからと、他の重要な仕事を明日に回して、郵便局に走る……こんな間違いをしている人は案外多いものだ。
 実は、優先順位を決めるときの判断基準は緊急度でなく重要度にある。だが、私たちはこの2つを混同して、緊急度の高いものを、その時間の緊急性のゆえに、なにをおいても優先してしまう間違いをおかしやすい。
 今日しなくては間に合わないことも、今日必ずやるべきこととはいえないかもしれない。したがって時間の有効活用のためには、重要度と緊急度をよく見きわめ、この2つを区別して考えなくてはいけない。

 交通事故で重傷を負った。いますぐ病院で手当をうけなくてはいけない。これは論議の余地はない。緊急度も重要度も両方高く、何をおいても優先しなくてはいけないことである。
 間違えやすいのは先の年賀はがきのような、「(1)緊急度は高いが重要度は低い」ケース、もしくは、その逆の「(2)緊急度は低いが重要度が高い」ケースである。
 (2)の例としては、たとえば、企業にとっての、新しい顧客の開拓、不調な事業部門の再建、後継者の育成など、短期的には不急だが、長期的にみてきわめて重要不可欠で、着手し、進行させておかなくてはいけない事柄だ。
 ともすれば、(1)を優先して、(2)をなおざりにしやすい。つまり、緊急度に振り回されて重要性を見失いがちになる。だが実は、真にやるべき順序は逆であることが多い。重要度の高いものの優先順位が先であり、緊急度はそれにつづく二義的な条件といえる。

 これは仕事のスパンを1日単位くらいで短くとるか、1週間、1ヵ月、1年と長くとるかという問題にもなってくる。
 今日1日の仕事効率を考えればAを優先すべきだが、1週間のスパンで考えればBを先にしたほうがいいということも起きてくる。個々のケースにそくして考えるべきで、一概にどちらを優先すべきとはいえないが、肝心なのは、この2つをきちんと区別して把握していることである。
 長期的には自分はBを達成しようとしている、だが、そのためには今日はAをやらなくては いけない。そうした全体像を常に頭に入れておくことが大切だ。