第19講 原則は定型化し、例外部分は別に受け皿を設ける

 

弁護士・公認会計士・通訳 黒川康正

 

  マニュアル化は効率がいいが、仕事の融通がききにくくなるといって、マニュアル化のチャンスを逃している人もいる。
 ファーストフード店でハンバーガーを百個注文したら、お持ち帰りですか、こちらでお召し上がりですかと機械的な声と笑顔で問い返された。そんな笑い話もあるが、これは例外事項まで無理して定型化してしまったことによる笑えない喜劇である。
 定型化するのは原則部分だけ。例外部分には、それを吸収する受け皿を別に用意しておくようにするのが、定型化のコツである。インデックスにその「その他」「雑」の欄をつくるのと同じやり方である。
 以前、私の事務所でも、「人財録」をデータベース化したとき、葉書などへの宛名印刷の際の人名の姓・名のスペースを何文字まで確保するかという問題に直面したことがある。試行錯誤の結果、いずれも四文字のスペースに定型化することに落ち着いた。
 むろん、そこに収まりきらない長い名前(その大多数は、日本に住む外国人のカタカナの名前)もある。しかし、それはごく少数の例外である。定型化した原則で99%以上の人名が収まる。 原則のみ定型化して、例外には別に対応する。この方法のほうが、例外にこだわって定型化を避けるより、はるかに効率的である。
 ファーストフード店の例も、マニュアル化自体がいけないのでなく、例外事項まで無理して定型化して対応しようとした点にあやまりがあるのである。
 ある企業の消費者相談室に商品クレームがもちこまれた。その電話に「いつもお世話になっております」と答えた例もあるというが、こうしたミスも、原則と例外を判然と区別しておけば防げる。
 むしろ逆説的になるが、こういう例外事項を明確にふるいにかけるために原則の定型化が必要ともいえる。例外とは「たまにしか起こらないが、起きたときは処理がむずかしい事柄」のことでもある。
 原則が標準化されていればこそ、例外への対応も柔軟にできるし、そのノウハウも改良、成熟していけるからだ。
 作業や手順の80%が原則内に収まるなら、その仕事は定型化したほうが時間効率はいい。