第17講 仕事前の助走時間を短くする秘訣

 

弁護士・公認会計士・通訳 黒川康正

 

  仕事をはじめるときのハードルは案外高くみえる。なかなか仕事にとりかかる気が起こらないまま、時間がいたずらに過ぎていく。そんな経験はだれにもなじみのものだろう。仕事の助走時間をいかに短縮して、効率よくテンションを高めるかは重要な問題である。
 ウォーミングアップ術として、たとえば、やりやすい仕事からスタートして、一定の速度まで加速した段階で困難な仕事を手がける方法なども一つの方法だろう。
 また、朝、すぐやる気になり、スムーズに仕事をはじめるために、前日に翌朝の仕事を少し先取りしてやっておく。翌日はその途中からはじめるのも、仕事速度に乗るためのいい方法といえよう。
 私は次のようにしている。
 通勤電車のなかで、その日こなすべき仕事の項目リスト(TO-DO-LIST)を書き加えたりしてひととおり確認し、効率いい段取りを考えたり、優先順位の入れ替えなどを行なう。同時並行処理できるものをくっつけたり、ときにはアイデアメモをとる。
 そうした準備運動をするうちに自然とテンションが高まってくる。このリスト記入・チェック法はウォーミング術として効果が高い。
 スムーズな仕事開始をつまずかせる意外な伏兵が小道具の欠落である。さあ、はじめよう、そう腕まくりをしたが必要な筆記用具がない。ボールペンのインクが切れていた。辞書や用紙が手もとにない。参照資料が用意されていない……。
 ささいなことだが、せっかく張りつめはじめていた緊張感が切れ、気勢がそがれる。これが案外無視できない。
 ある有名なカメラマンに「いい写真を撮る秘訣は」とたずねたら、「まずキャップをはずすことを忘れないこと」と答えたエピソードがある。基本的なプロセスをきちんとこなすことこそ、仕事の能率アップに不可欠。必要な備品や小道具を、漏れなく準備しておきたい。