第6講 遺言の記載内容

 

弁護士・公認会計士・通訳 黒川康正

 

  前講で遺言の有効な方式について述べたが、それを踏まえて、税務面を生かす遺言内容について述べることにする。

1.有効な主な記載内容は、10項目

 遺言できる(法的に有効な)主なものは、10項目である。
 生前でもできる行為として、次のものがある。
(1)認知、
(2)財産の処分、
(3)推定相続人の廃除とその取消、


 遺言でしかできない行為として、次のものがある。
(4)後見人、後見監督人の指定、
(5)相続分の指定または指定の委託、
(6)遺産分割方法の指定または指定の委託、
(7)遺産分割の禁止、
(8)相続人相互の担保責任の指定、
(9)遺言執行者の指定または指定の委託、
(10)遺贈減殺方法の指定、
 
 このうち、税務とは関係が薄い (4)、 (8)、(10) を除いた残りにつき、以下、簡単に説明を加える。

2.認知

 認知とは、婚姻関係以外によって生まれた子を、自分の子であると認めること。遺言での認知の場合、遺族は大ショック。遺産をめぐって騒動になりかねない。
 それなら、生前に認知すればよいともいえる。しかし愛人や二号さんの存在を家族に知られたくないし、子供までいることがわかったら離婚騒動にもなりかねない。なかなか生前の認知はむずかしい。かといって、死後に裁判に訴えられて強制的に認知させられ、遺産分
割で大騒動となることは、もっと大変である。
 結局、遺言で認知し、相続人を増やすことで相続税の基礎控除等も増やし、それと同時に、遺言で遺産分割方法も定め、認知した子に与える遺産を後継者の会社承継に支障ないものに限定する方がベターであろう。
 認知の記載方法は、例えば、次のように書けばよい。

「下記の者を遺言者の子として認知する。
            記
 本籍 東京都江東区夢の島1丁目2番地3
    妊知 須留子
        昭和45年6月7日生」

3.財産の処分

 生前にも贈与はできるが、遺言で行うときは遺贈になる。民法は次のように規定する。
 「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。但し、遺留分に関する規定に違反することができない」
 相続権のない人に財産を譲りたい場合に本規定が大きな意味を持つ。たとえば、女婿に会社を承継させたい場合などである。
遺贈の記載方法は、たとえば、次のように書けばよい。

「遺言者は、次の財産を長女○○の夫〇〇に遺贈する。・・・」

4.推定相続人の廃除およびその取消し

 虐待、侮辱または非行がある者について、相続させたくない場合は、生前も廃除請求できる。遺言で行う場合は、たとえば、次のように書けばよい。

 「遺言者は、三男○○を遺言者の推定相続人から廃除する」
 
 生前に廃除した後、遺言で廃除を取消したい場合は、たとえば、次のように書けばよい。

 「遺言者は、三男○○に対する推定相続人の廃除を取り消す。」

5.相続分の指定または指定の委託

 遺言がなかったり、遺言があっても相続分の指定がないときは、相続分は法定相続分に従う。そこで、法定相続分と異なる相続分で相続させたいときは、遺言で相続分を決める。また、相続分の指定を第三者にまかせることもできる。ただし、遺留分の規定に違反できない。1人または数人の相続分だけを定めることもできる。その場合、他の相続人の相続分は、法定相続分の規定に従う。 遺言者に子供がない場合とか、先妻と後妻がいて先妻に子供がある場合などは、とかくトラブルが生じがちなので、せめて、相続分の指定をすべきであろう。
相続分指定の記載方法は、たとえば、次のように書けばよい。

「遺言者は、次のとおり各相続人の相続分を指定する。・・・」

6.遺産分割方法の指定または指定の委託

 相続財産には、不動産、貴金属、株式、預貯金など、いろいろ種類がある。そのどれを誰に相続させるかという分割方法も指定できる。
 たとえば、次のように具体的に指定すればよい。

 「妻〇〇には宝石と預貯金のすべてを、長男〇〇には株式のすべてを、次男〇○には家屋と土地を、それぞれ相続させる」

 この指定は、相続分の指定と同様、相続人中の1人または数人についてもできるし、分割方法の指定を第三者にまかすこともできる。
 遺産分割方法を指定する際、相続税において配偶者には軽減規定があるが同時に近い将来に相続となること、誰を後継者とするか、などいろいろの要素を考慮に入れるべきである。この観点から、後継者には当会社の株式を中心に、配偶者には当会社株式以外の有価証券
や預貯金を中心に、その他の子には不動産を中心にして、などという分割方法の指定が考えられる。

7.遺産分割の禁止

 5年を限度として、遺産分割を禁止できる。遺産の利用が不可欠な事業の場合、勝手な分割は事の承継に支障をきたす。そこで、分割禁止の旨を遺言に書けば、最低5年間は事業を維持できよう。その記載方法は、たとえば、次のように書けばよい。

「遺言者は、遺産全部につきその分割を禁止する」

8.遺言執行者の指定または指定の委託

 遺言者は、遺言を実行すべき者(遺言執行者)を指定できるし、その指定を第三者に委託もできる。たとえば、次のように書けばよい。

 


 「遺言執行者として下記の者を指定する。
           記
 東京都千代田区永田町2丁目9番8号パレロワイヤル永田町703号
                  黒川康正国際法律会計事務所内
                       弁護士 黒川康正氏 」

 遺言執行人は、法律に明るく、相続人に信用があり、トラブルになったときは威厳を持って迅速に行動できる人でなければならない。従って、ほとんどは弁護士がなる。それも、遺言書作成に関与した弁護士がなっている。

9.結論

 筆者の経験から言って、特段の事情のない限り、次の方法が最良だと考える。すなわち、税務に明るい弁護士に最初から依頼し、さらに、その弁護士に遺言執行者にもなってもらって、公正証書遺言を作成する。その遺言につき、毎年一定の日(元旦、誕生日、会社創立記念日など)に、実態に即しているか検討を加える。必要に応じて、新しい遺言を作成する。そうすれば、それに抵触する範囲で、古い遺言は自動的に無効となる。